外国人投資家が日本株に再注目している背景:プロのマネーが語る5つの理由

はじめに:海外のプロが「日本株を買う」と言っている 個人投資家の多くがNISAでオルカンやS&P 500を積み立てている一方で、面白い動きが起きています。 世界最大級の資産運用会社や投資銀行が、そろって日本株に対して強気な見通しを出しているのです。 ゴールドマン・サックス、JPモルガン、ブラックロック、ジャナス・ヘンダーソン、インベスコ、大和アセットマネジメント——これだけの名前が並ぶと、偶然とは言えません。 実際に、2025年の第2四半期以降、外国人投資家による日本株への資金流入は約13.5兆円に達し、TOPIXが3,000、日経平均が50,000円をそれぞれ初めて突破する原動力になりました。 この記事では、海外のプロ投資家がなぜ今、日本株を選んでいるのか、その理由を5つに整理してお伝えします。 理由① デフレからの脱却:30年ぶりの「インフレ定着」 日本経済にとって最も大きな構造変化は、30年以上続いたデフレからの脱却です。 JPモルガンは、日本がインフレ率2%以上を4年連続で維持していることを指摘し、これが「30年以上で最も長い期間」であると述べています。 なぜこれが株式市場にとって重要なのでしょうか。 デフレ下では、モノの値段が下がり、企業は値上げができず、利益率が圧迫されます。消費者は「待てば安くなる」と考え、お金を使いません。この悪循環が、日本企業の低収益性の根本原因でした。 それが今、変わりつつあります。企業は値上げができるようになり、利益率が改善しています。賃金も上昇し、消費が回復しています。ゴールドマン・サックスのレポートによれば、日本企業のEPS(一株あたり利益)成長率は、2008年から2019年までの年率約2%から、直近では年率8%に加速しています。 つまり、日本企業の収益力そのものが構造的に改善しているのです。これは一時的なブームではなく、デフレ脱却という30年ぶりの環境変化に裏打ちされた変化です。 理由② コーポレートガバナンス改革の「次のフェーズ」 前回までの記事でも触れてきた東証のPBR1倍割れ是正の要請やアクティビストの台頭。海外の投資家は、これらの動きを非常に高く評価しています。 特に注目されているのは、2026年に予定されているコーポレートガバナンス・コードの改訂です。IFA Magazineのレポートによれば、次の改訂では以下の点が強化される見込みです。 戦略的な資本配分:企業が現金や内部留保をどう使っているかの説明を求める 透明性の向上:政策保有株(持ち合い株式)の目的の明確化と、最終的な受益者の開示 原則ベースのアプローチの再確認:形式的な対応ではなく、自社のガバナンスの考え方を説明する姿勢を求める 具体的な数字も印象的です。日本企業の自社株買いは2025年に約18兆円に達する見通しで、これはコロナ前の2倍以上の水準です。配当も5年連続の増配が見込まれています。平均ROE(自己資本利益率)は8.4%から9%に改善しています。 ある運用会社のコメントが、この変化を端的に表しています。「10年前の日本企業と今の日本企業はまったく別物だ。効率性と透明性が格段に向上し、株主利益との整合性が明確になった」。 理由③ 「米国集中リスク」からの分散先としての日本 これは個人投資家にとっても重要な視点です。 S&P 500は過去数年間、驚異的なリターンを叩き出してきました。しかし、その裏側には深刻な集中リスクがあります。S&P 500の上位10銘柄が指数全体の30%以上を占めており、テクノロジーセクターへの依存度が極めて高い状態です。 ブラックロックは、2025年に日本株ETFへのオーストラリア投資家からの資金流入が前年の3倍に達したことを報告しています。その背景として「米国市場の集中度への不安から、投資家が新たな成長機会を探している」ことを挙げています。 JPモルガンも、日本株に対する見通しの中で「国際投資家・国内投資家ともに、日本株へのポジションはまだアンダーウェイト(配分不足)の状態にある」と指摘しています。つまり、まだ資金流入の余地が大きいということです。 日本の株式市場は時価総額で約7.9兆ドル(約1,234兆円)。世界第3位の規模を持つにもかかわらず、グローバル投資家のポートフォリオにおける比率はまだ低い水準にとどまっています。この「アンダーウェイト解消」の動きが進めば、それ自体が日本株の上昇要因になります。 理由④ 高市政権の「サナエノミクス」への期待 海外投資家にとって、日本の政治リスクが低下したことも大きなプラス材料です。 インベスコのレポートは、2025年10月の高市首相就任後、「外国人投資家が日本株に回帰し、市場の熱狂が高まった」と記しています。高市政権の経済政策は海外では「サナエノミクス」とも呼ばれ、注目を集めています。 具体的には以下の点が評価されています。 積極財政:2025年度補正予算21.3兆円の経済対策。AI・半導体・宇宙・量子技術など成長分野への大規模投資 政権の安定性:衆院選での歴史的圧勝(316議席、単独で3分の2以上)により、政策の実行力が大幅に強化 日米関係の安定:トランプ大統領の訪日を含む外交成果 大和アセットマネジメントは「高市政権は追い風となる。成長戦略は特に注目に値する」と評価し、ブラックロックも「強力な財政支援プログラムが国内経済への追い風になる」としています。 政治の安定は、海外投資家が最も重視する要素の一つです。政策が予測可能であること、長期にわたって一貫した方向性が維持されること——これらは、日本株への長期投資を判断する上で不可欠な条件です。 理由⑤ 利益成長の加速と割安感 最後に、最もシンプルで重要なポイント——日本企業の利益が伸びているということです。 ジャナス・ヘンダーソンは2026年に日本株が二桁のEPS成長を達成する可能性があるとの見方を示しています。輸出セクターの回復、堅調な国内需要、そして利上げによる金融セクターの収益改善が主な要因です。 ゴールドマン・サックスも、2026年のEPS成長率を8〜9%と予想しています。 そして、この利益成長に比べて、日本株のバリュエーション(株価指標)は依然として割安な水準にあります。ロード・アベットのレポートによれば、MSCI ACWI(米国除く)のPER(株価収益率)は、S&P 500に対して36%のディスカウント。つまり、利益に対して株価がまだ安いということです。 利益が伸びている。バリュエーションが割安。ガバナンス改革が進んでいる。政治が安定している。——これだけの条件が揃えば、海外のプロが日本株を買うのは当然の判断と言えるでしょう。 個人投資家にとっての意味 ここまで読んでいただいた方は、お気づきかもしれません。 海外のプロ投資家が日本株を買っている理由は、このブログで前回までにお伝えしてきた内容とほぼ一致しています。 デフレ脱却とインフレ定着 コーポレートガバナンス改革と株主還元 高市政権の積極財政 米国一極集中からの分散 違いがあるとすれば、海外の機関投資家はすでに行動に移しているということです。13.5兆円という資金が、2025年後半だけで日本株に流入しています。 個人投資家の多くがまだオルカンやS&P 500に集中している今、日本株に目を向けるということは、プロの投資家と同じ方向を向くことを意味しています。 もちろん、プロが買っているからといって必ず上がるわけではありません。しかし、世界中の運用会社が同じ方向を指しているとき、その根拠を無視するのはもったいないのではないでしょうか。 次回は、ケビン・ウォーシュとは何者か——新FRB議長を読み解く記事をお届けします。 ※本記事は特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではありません。投資に関する最終的なご判断は、ご自身の責任でお願いいたします。

2026年2月14日 · 1 分 · 玉露 (Gyokuro)

東証改革とPBR1倍問題:日本企業が変わり始めた本当の理由

はじめに:「PBR1倍割れ」とは何か 投資に詳しくない方でも、「PBR1倍割れ」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。2023年から日本の経済ニュースでたびたび取り上げられるようになったキーワードです。 PBRとは「株価純資産倍率」のこと。計算式は非常にシンプルです。 PBR = 株価 ÷ 1株あたり純資産(BPS) PBRが1倍ということは、株価がその会社の純資産(帳簿上の価値)と同じであることを意味します。つまり、PBRが1倍を下回っている企業は、「会社を今すぐ解散して資産を分配したほうが株主にとって得」という評価を市場から受けていることになります。 これは企業にとって極めて厳しい評価です。「あなたの会社が事業を続けていること自体が、価値を壊している」と言われているのと同じだからです。 東証が動いた:2023年3月の要請 2023年3月31日、東京証券取引所はプライム市場およびスタンダード市場の全上場企業に対して、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。 メディアでは「PBR1倍割れ改善要請」として報じられましたが、東証の担当者は「PBRの数字を上げること自体が目的ではない」と明言しています。本来の趣旨は、「株主から預かった資金をどう効率的に活用し、成長に結びつけるのかを考え、それを投資家に説明し、対話してほしい」というものでした。 しかし、この要請が持った意味は計り知れません。 なぜなら、この要請以前の日本市場では、プライム市場の約半数の上場企業がPBR1倍割れ、ROE(自己資本利益率)8%未満という状態だったからです。これは欧米の市場と比較して明らかに低い水準であり、長年にわたって海外投資家が日本株を敬遠する大きな理由の一つでした。 筆者が30年間、日本株の投資の最前線で働いてきた経験の中でも、海外投資家との面談で最も多く指摘されたのが、まさにこの「日本企業のROEの低さ」と「キャッシュを溜め込んで何も使わない経営姿勢」でした。 何が変わったのか:数字で見る改革の進捗 要請から約3年。具体的にどの程度の変化が起きているのでしょうか。 開示の進捗 2024年12月末時点で、検討中を含めてプライム市場企業の**90%**が何らかの開示を行っています。スタンダード市場でも48%が対応済みです。 東証は2024年1月から対応企業の一覧を毎月公表しており、「開示していない企業」が誰の目にもわかる状態を作りました。これが日本の経営者に強い動機を与えました。ある国内の機関投資家は「日本の経営者は競合他社の動向に敏感だ。比較して自分が劣っていると感じてはじめて本気で動く」と語っています。 ROEの改善 いちよし経済研究所のデータによれば、プライム上場企業のROE中央値は、2023年3月の**8.57%から9.15%**に改善しています。前回の記事で紹介した通り、IFA Magazineは平均ROEが8.4%から9.0%に上昇したと報告しています。 数字上はまだ小幅ですが、日本企業のROEが構造的に上昇トレンドに入ったことの意味は大きいです。 PBR1倍割れ比率の低下 プライム市場のPBR1倍割れ比率は**47%から43%**に低下しました。特に業種別では建設・建設資材セクターが78%から44%へ、物流・卸売が43%から22%へと大幅に改善しています。 株価への効果 東証のフォローアップ資料によれば、要請に対応して開示を行った企業群の株価は、開示を行っていない企業群に比べて明確に上回るパフォーマンスを示しています。TOPIXは要請時点からおよそ1.5倍以上に上昇しました。 日本株の最前線から見た「変化の本質」 数字は大切ですが、筆者が最も重要だと感じているのは、日本の企業経営者の意識が変わり始めているという点です。 正直に言えば、この改革にも限界はあります。 日経新聞は「PBR改善は踊り場に来ている」と報じていますし、PwCのレポートも「増配や自社株買いだけではPBRの本質的な改善にはならない。成長ストーリーを示す必要がある」と指摘しています。 筆者もこの見方に同意します。多くの企業が「とりあえず増配・自社株買い」で対応しているのが実情であり、本当の意味での事業の成長戦略を伴っていない場合も多い。 しかし、それでも筆者はこの改革を前向きに評価しています。理由は3つです。 ① 「不可逆」な仕組みが作られた 東証が開示企業の一覧を毎月更新し、公表しているということは、一度始めた改革を止められない仕組みができたということです。「去年は開示したけど、今年はやめます」とは言えない。コーポレートガバナンス・コードも、2026年の改訂でさらに強化される見込みです。制度が企業を動かす構造が確立されました。 ② 外国人投資家がモニタリングしている 前回の記事でお伝えした通り、2025年後半だけで13.5兆円もの海外資金が日本株に流入しました。彼らは改革の進捗を注視しています。海外の機関投資家は、日本企業のガバナンス改善を投資判断の重要な要素として位置づけており、後退すればすぐに資金を引き上げます。 ③ アクティビストの存在が圧力を維持している 以前は日本市場でアクティビスト(物言う株主)が活動することは珍しかったのですが、近年は急増しています。エリオット・マネジメント、バリューアクト、ダルトン・インベストメンツなど、海外のアクティビストが日本企業の株式を取得し、経営改善を要求するケースが相次いでいます。 いちよし経済研究所のレポートでも、PBRが改善した業種の要因として「アクティビストの関与」が明確に挙げられています。 PBRを分解して理解する 少し技術的な話になりますが、PBRの改善メカニズムを理解しておくと、今後の投資判断に役立ちます。 PBRは以下のように分解できます。 PBR = ROE × PER つまり、PBRを上げるには2つのルートがあります。 ROEを上げる:利益率の改善、不要資産の売却、自社株買い(自己資本を減らす) PERを上げる:成長期待を高めることで、投資家が高い株価をつけるようにする 多くの企業がまず取り組んだのは、ROE改善のための「自社株買い」と「増配」です。これは即効性がありますが、それだけでは限界があります。 本質的なPBR向上には、事業そのものの収益力向上と、それを投資家に説得力を持って伝えるIR(投資家向け広報)の力が必要です。東証の要請が「開示」と「対話」を求めている理由は、まさにここにあります。 個人投資家にとっての投資チャンス この改革は、個人投資家にとっても大きなチャンスです。 なぜなら、PBR1倍割れの企業が改善に動くということは、今の株価が割安である可能性が高いということだからです。 特に注目すべきは以下のような企業群です。 PBR1倍未満だが、ROEが改善傾向にある企業 中期経営計画でPBR1倍超を目標に掲げている企業 自社株買いの発表や増配の計画がある企業 アクティビストが株式を取得している企業 東証が公開している開示企業一覧をチェックするだけでも、どの企業が真剣に取り組んでいるか、ある程度の判断ができます。 まとめ:改革は「始まったばかり」 東証のPBR改善要請から約3年。確かに変化は起きています。 プライム市場企業の90%が開示に対応 ROEは8.57%から9.15%に改善 PBR1倍割れ比率は47%から43%に低下 自社株買いは年間18兆円規模に拡大 2026年にコーポレートガバナンス・コード改訂が予定 しかし、欧米企業と比較すればまだ道半ばです。S&P 500のROEは20%前後。日本の9%はまだ半分以下です。 ...

2026年2月14日 · 1 分 · 玉露 (Gyokuro)