はじめに:「投資なんて怖い」と言っていた日本人が動いた

日本人は投資が嫌いだ——そう言われてきました。

家計の金融資産のうち、現金・預金の比率は50%超。アメリカの13%、ユーロ圏の34%と比べて突出して高い。「投資は損する」「株はギャンブル」という意識が根強く、「貯蓄から投資へ」というスローガンは20年以上前から掲げられてきたものの、実態はほとんど変わりませんでした。

しかし、2024年に風向きが変わりました。

金融庁の最新データによれば、2025年6月末時点でNISA口座数は約2,696万口座に達しています。新NISAがスタートした2024年1月以降、わずか1年半で約570万口座が新たに開設されました。

累計買付額は63兆円を超え、政府が掲げた目標(2027年末までに56兆円)をすでに2年前倒しで達成しています。

「貯蓄から投資へ」は、もはやスローガンではなく、実際に起きている構造変化です。

数字で見る変化の全体像

具体的なデータを確認しましょう。

NISA口座の爆発的増加

時点 NISA口座数 累計買付額
2023年12月末(新NISA前) 約2,125万 約35.2兆円
2024年12月末 約2,558万 約52.4兆円
2025年6月末 約2,696万 約63.1兆円
政府目標(2027年末) 3,400万 56兆円(達成済み

ニッセイ基礎研究所のレポートによれば、2024年は全ての年代でNISA口座数が増加し、特に20代以下の伸びが際立っています。20代から60代まで、NISA口座の保有率は20%を超えました。

実際に「使っている」人が急増

口座を開いただけでなく、実際にお金を投じた人も大幅に増えています。2024年に実際に買付があったNISA口座は1,650万口座で、前年の1,269万口座から380万口座も増加しました。

さらに注目すべきは、売却が極めて少なかったという事実です。つみたて投資枠での売却額はわずか1,813億円にとどまり、買付額4.97兆円の3.6%に過ぎません。新NISAの制度恒久化と投資期間の無期限化が、「買ったら持ち続ける」という行動を後押ししています。

家計の金融資産構成が変化

日本銀行の資金循環統計によれば、2024年末時点の家計金融資産は2,239兆円で過去最大を更新しました。その中で株式等の比率は**19.4%**と、2023年末の17.7%から上昇しています。

わずか1年で1.7ポイントの上昇。小さく見えるかもしれませんが、2,239兆円の1.7%は約38兆円に相当します。日本の家計から株式市場に向かう資金の規模感が、いかに大きいかがわかります。

なぜ今、日本人は投資を始めたのか

この変化には、いくつかの構造的な理由があります。

① 新NISA制度の圧倒的なインパクト

2024年1月にスタートした新NISAは、旧制度と比較して大幅に使いやすくなりました。

  • 非課税期間が無期限に(旧NISA:一般5年、つみたて20年)
  • 年間投資枠が360万円に拡大(旧つみたてNISA:40万円)
  • 生涯投資枠1,800万円が新設
  • つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能

特に「非課税期間が無期限」という変更は、心理的に大きな影響を与えました。「いつか非課税期間が終わる」という焦りがなくなったことで、長期投資のハードルが一気に下がったのです。

② インフレの実感

前回の記事で詳しく解説した通り、日本のインフレは定着しつつあります。消費者物価は2%以上の上昇が45ヶ月連続で続いています。

「預金に入れておけばお金の価値は減らない」という時代は終わりました。

スーパーで食品の値段が上がり、外食費も上がり、電気代も上がる。その一方で、銀行預金の金利はほぼゼロ。この状況が続けば、「何か手を打たなければ」という危機感を持つ人が増えるのは自然なことです。

③ 情報環境の変化

YouTube、SNS、ブログなどで投資に関する情報が爆発的に増えました。以前は「証券会社の窓口に行く」というハードルがありましたが、今はスマートフォンで5分あれば口座が開設でき、100円から投資を始められます。

特に20代〜30代の若い世代にとって、投資はもはや「特別なこと」ではなく、「やって当たり前のこと」になりつつあります。

この資金シフトが日本株にとって意味すること

ここからが、このブログの読者にとって最も重要なポイントです。

① 国内からの「買い手」が構造的に増えている

日本株市場には、大きく分けて3種類の投資家がいます。

  • 外国人投資家:短期〜中期の売買の主役。資金量は大きいが、出入りが激しい
  • 機関投資家(年金、保険会社など):長期の安定した買い手だが、リバランス時に売り手にもなる
  • 個人投資家:長年は「逆張り」(株が下がると買い、上がると売る)が主流だった

新NISAの普及により、個人投資家が「毎月コツコツ買い続ける」という新しい買い手層として存在感を増しています。つみたて投資枠を使って毎月一定額を自動的に買い付ける投資家は、株価が上がっても下がっても買い続けます。

これは市場にとって非常に重要な「安定した買い需要」です。

② ただし、お金の多くは海外に流れている

ここで一つ、見逃せない事実があります。

新NISAで最も人気のある投資信託は、圧倒的にオルカン(全世界株式)とS&P 500です。つまり、日本の家計から投資に向かったお金の大半は、日本株ではなく海外株式に流れているのが現状です。

これは皮肉な状況です。日本人が「貯蓄から投資へ」動いた結果、その投資資金が海外に流出し、円安をさらに助長する構図になっています。

③ だからこそ「日本株への回帰」に大きな余地がある

しかし、裏を返せば、これは日本株にとって巨大なアップサイドの可能性を意味します。

現在、NISAで日本株に投資している比率はまだ小さい。しかし、このブログでお伝えしてきたような構造変化——インフレ定着、東証改革、ガバナンス向上、海外投資家の回帰——が認識されるにつれて、NISAの資金の一部が日本株にシフトする可能性があります。

2,700万人のNISA口座保有者が、ポートフォリオのわずか10%を日本株に振り向けるだけで、数兆円規模の資金が国内市場に流入することになります。

さらに、円高が進めば、為替リスクを気にする投資家が「やっぱり日本株のほうが安心」と考えるようになるでしょう。

政府の本気度

この「貯蓄から投資へ」の流れは、政府が政策的に強力に後押ししていることも見逃せません。

政府は「資産所得倍増プラン」を掲げ、2027年末までにNISA口座を3,400万に増やす目標を設定しています。買付額の目標はすでに前倒しで達成済みです。

さらに、金融庁は2026年度の税制改正で、つみたて投資枠の対象年齢引き下げ(18歳未満への拡大)も要望しています。NISAを「全世代の資産形成インフラ」として位置づける姿勢は明確です。

高市政権の積極財政路線と相まって、「国民に投資を促し、投資の果実を家計に還元し、それをさらなる消費と投資に結びつける」——この好循環を実現するための政策パッケージが整いつつあります。

まとめ:歴史の転換点にいる

データが示す事実を整理しましょう。

  • NISA口座数:2,700万(成人の約4人に1人)
  • 累計買付額:63兆円超(政府目標を2年前倒しで達成)
  • 家計の株式比率:17.7%→19.4%に上昇(わずか1年で)
  • 2024年の新規買付:17.4兆円(前年の3.3倍)
  • つみたて投資枠の売却率:わずか3.6%

日本の家計は、30年間の「貯蓄神話」からようやく目覚めつつあります。

この巨大な資金の流れは、まだ始まったばかりです。そして現在、その大半は海外に向かっています。しかし、日本株を取り巻く環境の構造的な改善が認識されるにつれて、この資金の一部が国内に回帰する——それが私の見立てです。

2,700万人の投資家が動き出した日本。この変化の恩恵を最も受けるのは、早い段階で日本株のポジションを持っていた人ではないでしょうか。


※本記事は特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではありません。投資に関する最終的なご判断は、ご自身の責任でお願いいたします。