はじめに:NISA口座の含み益、中身を確認していますか?
2024年1月に新NISAがスタートして以来、多くの方がオルカンやS&P 500の投資信託を積み立ててきたと思います。口座を開くと、嬉しいことに含み益が出ている方も多いのではないでしょうか。
でも、ここで一つ質問です。
その含み益のうち、「株価の上昇」によるものはどのくらいで、「円安」によるものはどのくらいか、把握していますか?
この記事では、2021年から2024年にかけての大幅な円安が、ドル建て資産のリターンをどれだけ底上げしてきたかを確認し、その「円安ボーナス」が逆転したときに何が起きるかを考えます。
2021〜2024年:歴史的な円安の3年間
ドル円相場の動きを振り返りましょう。
| 時期 | ドル円レート |
|---|---|
| 2021年1月 | 約103円 |
| 2022年10月 | 約151円(32年ぶりの円安) |
| 2024年7月 | 約161円(37年半ぶりの円安) |
わずか3年半で、ドル円は103円から161円へ。約56%の円安が進行しました。
これは何を意味するのでしょうか。仮にこの期間中、S&P 500がドルベースで1ドルも動かなかったとしても、円建てで見ると56%の利益が出ていることになります。
つまり、NISAでドル建て資産を持っていた人は、株価が上がらなくても、円安だけで大幅な含み益を得ていたのです。
含み益の「分解」をしてみよう
実際には株価も上がっていたので、リターンはもっと大きく見えます。ここで、2021年1月から2024年末までのS&P 500の円建てリターンを、株価要因と為替要因に分解してみましょう。
S&P 500(2021年1月→2024年12月、概算):
- ドルベースのリターン:約+45%
- 円安の効果(103円→156円):約+51%
- 円建ての合計リターン:約+120%
つまり、円建てリターン120%のうち、半分以上が円安によるものです。
オルカンも同様の構造です。資産の約95%が外貨建てであるため、円安の恩恵をほぼフルに受けています。
NISA口座を見て「倍になった!」と喜んでいる方は、その利益の半分が為替の「下駄」であることを理解しておく必要があります。
円安は「ボーナス」だが、永遠には続かない
為替には必ずサイクルがあります。以前の記事で詳しく見た通り、ドル円は歴史的に5〜10年の単位で大きなトレンドが転換してきました。
- 1985〜1995年:240円→79円(約10年間の円高トレンド)
- 1995〜1998年:79円→147円(約3年間の円安トレンド)
- 2007〜2011年:124円→75円(約4年間の円高トレンド)
- 2012〜2024年:75円→161円(約12年間の円安トレンド)
2012年から始まったアベノミクス以降の円安トレンドは、すでに12年以上続いています。これは歴史的に見ても非常に長い周期です。
そして今、トレンド転換を示唆する要因がいくつも揃いつつあります。
円高に向かう3つの力
① 米国の利下げサイクル
ケビン・ウォーシュ新FRB議長のもとで、2026年後半には利下げが見込まれています。米国の金利が下がれば、日米金利差が縮小し、ドルの魅力が低下します。これは直接的な円高要因です。
② トランプ政権のドル安志向
トランプ大統領は繰り返し「ドルは高すぎる」という立場を示しています。貿易赤字の削減と国内製造業の保護には、通貨安が政策的に望ましいからです。
③ 日銀の利上げ
日銀はすでに政策金利を0.5%まで引き上げており、今後も緩やかな利上げが予想されています。日本の金利が上がれば、相対的に円の魅力が増し、円高圧力となります。
シミュレーション:円高が来たらNISAの含み益はどうなる
ここが最も重要な部分です。
NISAでS&P 500の投資信託を200万円保有しており、現在の含み益が80万円(評価額280万円)だとします。このうち株価上昇分が40万円、円安分が40万円と仮定します。
ドル円が155円から以下の水準に動いた場合、どうなるでしょうか。
| ドル円 | 為替の影響 | 含み益の変化 | 残る含み益 |
|---|---|---|---|
| 155円(現状) | — | — | 80万円 |
| 140円(約10%円高) | 約−28万円 | 為替益が消失 | 約52万円 |
| 125円(約19%円高) | 約−53万円 | 大幅減少 | 約27万円 |
| 110円(約29%円高) | 約−81万円 | ほぼゼロ | 約−1万円 |
ドル円が110円まで戻れば、80万円の含み益はほぼ消えます。
110円は極端に聞こえるかもしれませんが、2020年3月には101円台を記録しています。わずか6年前の話です。
「長期投資だから大丈夫」の盲点
ここで、よくある反論に答えておきます。
「長期で積み立てているから、短期的な為替変動は関係ない」
この考え方は一理ありますが、2つの盲点があります。
盲点①:円安期間に積み立てた分は「高値掴み」になりうる
ドルコスト平均法は価格変動を平均化する手法ですが、もし今後5〜10年にわたって円高トレンドが続けば、2022〜2024年に積み立てた分は為替的に「高値掴み」だったことになります。平均化には長い時間がかかります。
盲点②:取り崩し時期に円高が重なるリスク
NISAの最大の特徴は非課税であることですが、いつかは資産を取り崩す日が来ます。教育資金や老後資金として使うタイミングで円高が進行していたら、積み立ててきた期間の為替益はすべて消える可能性があります。
では、どうすればいいのか
この記事の結論は「ドル建て資産を全部売れ」ではありません。
ポイントは、自分のポートフォリオのリスクを正しく理解することです。
① NISA口座の「為替分解」をやってみる
証券会社のサイトで、保有ファンドの基準価額の推移とドル円の推移を並べてみてください。おおまかにでも、リターンのどの程度が為替によるものかを把握するだけで、今後の判断の質が変わります。
② ポートフォリオに日本株を加える
最もシンプルな為替ヘッジは、為替リスクのない資産を持つことです。日本株は円建てで取引されるため、為替変動の影響を直接受けません。
これまでの記事でお伝えしてきた通り、日本株にはインフレ定着、ガバナンス改革、政治の安定、海外投資家の回帰といった独自のポジティブ要因があります。「為替ヘッジのため」だけでなく、リターンの源泉としても日本株は有力な選択肢です。
③ 為替が「高い」ときの一括投資を避ける
円安が進んだ局面でドル建て資産に大きな金額を一括投入するのは、為替リスクが最大化するタイミングです。積立投資を基本にしつつ、一括投資は為替水準も考慮に入れて判断しましょう。
まとめ:含み益の「質」を見極める
NISAの含み益が出ていることは良いことです。しかし、その中身を分解したとき、大きな部分が円安による「見かけの利益」である可能性を忘れないでください。
2012年から続いた円安トレンドは、歴史的に見ても異例の長さです。米国の利下げ、トランプ政権のドル安志向、日銀の利上げ——円高への転換を示唆する材料は揃いつつあります。
含み益が出ているうちに、ポートフォリオ全体の為替エクスポージャーを見直し、日本株を含めたバランスの良い構成に調整すること。それが、「円安ボーナス」が終わった後も資産を守る最善の方法ではないでしょうか。
※本記事は特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではありません。投資に関する最終的なご判断は、ご自身の責任でお願いいたします。